− 山 口 三 智 詩集より −



こども   とととについて         プロフィール





ひらかれない眼をおし開こうと
虚ろな空をくまなく探しあぐんでいるとき
樹よ
そこに突ったっている樹
くろぐろと空に聳える寺院
樹よ おまえは
くらい空間に烈しく立って
青い鉄色の枝を垂らしている
星が散ると
寺院は冷たい鱗をひるがえして
薄明かりの空に
枝々はしずかに経文歌を波うたせる
吹かれるままに風に吹かれて
わたしは一枚の布片になってしまった
嵐の夜
樹よ おまえのしたに伏せていよう
寺院の壁にまきついてじっと目を閉じていよう
ああ きこえてくる 腕のなかの樹
千條の根から吸いあげる おまえの肉声
わたしの血をおまえの胸に吸みとりながら昇ってゆく
嵐のなかの樹
レクイエムの 森の
寺院の穹窿に舞いあがる ひとひらの布。


「詩集 錆びた時 山口三智」 アカネ会 2〜3ページ



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